陰火4

あ、あの、倉田先輩は

佳保里が今にも消え入りそうな声で尋ねる。

倉田君?

真理子は教室の中を見回して首を横に振る。

いないみたい、食堂じゃないかしら

食堂、見に行ったんですけどいなくて

あら、そうなの。どこに行ったのかしら

真理子が首を傾げると後ろかさらに二人やって来た。

真理子、どうしたの?

この子達が倉田君に用事があるみたいなんだけれどいないの

倉田に?何?何の用?

ショートカットのちょっとエキゾチックな感じの方の女性が面白そうに佳保里と美月を見る。そっちの女性も校内では有名である。この間の体育大会でも大活躍していた藍田瑞樹だ。

あえっと、

佳保里は真っ赤になっている。

瑞樹、可哀想よ

それを見ていたもう一人のちょっと大人しめの感じのいかにも女の子って感じの方がそう声を掛けた。こちらもみんな知っている、柏木安奈だ。譲原真理子、藍田瑞樹、柏木安奈。この三人は大抵一緒にいる。クールで学内トップクラスの成績の譲原真理子、運動神経抜群で人気者の藍田瑞樹、ちょっと控えめだが優しくて気配りの利く柏木安奈。下級生からみんな慕われている。その三人が目の前に来て美月は少しドキドキした。こんな間近で口を聞いたりする事があるとは思ってもみなかった。佳保里もすっかり委縮している様子である。

なんか、真理子の事怖がっているんじゃない、この子達

瑞樹がからかうように言う。

あら、それどういう意味?

だって、真理子ってそう言う雰囲気持っているもん

失礼ね、瑞樹が遠慮ない態度取るから委縮しちゃっているのよ、ねえ

そう言いながら真理子は微笑んでこっちを見る。佳保里は口をパクパクさせるようにして何か言おうとしているが言葉にならないようだ。三人の持つオーラにすっかり飲み込まれている。

あ、あの倉田先輩、どこに居るか分かりませんか

代わりに美月がそう尋ねる。

あ、ああ、そうだったわね。倉田君、食堂にいなかったみたいよ

真理子が後ろの二人を振り返りながらそう言った。

あ、もしかして

その言葉に安奈が何か思い出したように声を出した。

体育館かも

安奈がそう言うと瑞樹も頷いた。

あ、そうか。次の授業、体育だ

ああ、そうね。きっとそうだわ。倉田君、体育の授業の時はいつも先に準備に行っているから

真理子にそう言われて美月は頷いて佳保里の腕を引っ張る。

体育館ですね、行ってみます。ありがとうございます

元来た廊下を小走りに戻っていく。廊下を曲がって三人の視線を感じなくなると二人は歩き出した。

吃驚したね

まさかあの三人が出てくるとは想定外であった。美月がそう言うと佳保里も頷いた、それに心なしかさっきまでよりちょっと元気がなくなってるような気がする。

どうしたの?

柏木先輩って、すっごく可愛いね。近くで見たら余計そう思った

あ、うん。そうだね

美月は真理子の圧倒的な美貌に見とれてしまっていたが佳保里は安奈の方が目についたのかと思った。

あのさ、倉田先輩って柏木先輩の事好きなのかもって言っている人いるんだ

え、そうなの?

うん

でも、単なる噂なんでしょう

そうだけど、あんな風に間近で見ると完全に自信喪失。なんかプレゼント渡すの気が引けてきちゃった

何言ってるの、さっきまであんなに意気込んでいたのに。折角買って来たんだから、行こうよ

うん

躊躇している佳保里の手を引っ張って美月は速足で歩いた。

ほら、昼休み終わっちゃうよ

校庭を抜けて体育館に着くと健史が一人でバスケのボールを磨いていた。

いた、いたよ。佳保里

美月は小声で佳保里に声を掛ける。見ると佳保里は既にカチンコチンに固まってしまっている。

佳保里ったら、何やっているの。ほら、早く

そう言って美月は佳保里の背中を押す。緊張の為か右足と右手が一緒に出ている。美月は後ろからそっとその様子を伺う。中に入った佳保里に気が付いて健史がこっちを見る。

一年生?え、次の授業体育館使う予定だった?

健史にそう声を掛けられて佳保里はプレゼントを両手に抱えたまま首を横に振る。

あ、い、いえ。あ、あの、倉田先輩に

俺?え、何?

佳保里は足が地面にくっついているかのようにその場からもう前に進めなくなっている。

佳保里、ほら

美月は健史に聞こえないように声を掛ける。その様子を見ていた健史がこっちに近づいてきた。

あ、あの、お、お誕生日おめでとうございます

目の前まで来た健史にプレゼントを押し付けるように渡してそう言った佳保里はそのままくるっとこっちに向かって走ってくると美月の横をすり抜けるように猛スピードで戻って行った。美月は慌ててその後を追いながら振り返って健史を見る。彼はあっけにとられたような顔で呆然とプレゼントを持ったまま立ち尽くしている。その様子に美月はクスッと笑ってしまった。

陰火5へ続く

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